No.005
解約するときだけ引かれるお金|信託財産留保額は誰の手に残るのか
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積立をしていた12年間、私が気にしていたコストは信託報酬だけでした。年0.1%を切る商品が並ぶようになって、比べるならそこだろう、と。ところが取り崩しを始めてみると、保有している間は一度も顔を出さなかった費用が、売るたびに出てきます。
信託財産留保額です。名前が長いわりに、性質は他の費用とまるで違います。
投資信託のコストは5つあって、引かれる時期が違う
資産運用業協会は、投資家が負担する費用として5つを並べています。購入時手数料、運用管理費用(信託報酬)、監査報酬、売買委託手数料、そして信託財産留保額です(資産運用業協会 投資信託のコスト)。
| 費用 | いつ | 払い方 |
|---|---|---|
| 購入時手数料 | 購入時 | 直接支払う |
| 運用管理費用(信託報酬) | 保有時 | 信託財産から間接的に |
| 監査報酬 | 保有時 | 信託財産から間接的に |
| 売買委託手数料 | 株式などの売買時 | 信託財産から間接的に |
| 信託財産留保額 | 換金時 | 直接支払う |
直接支払うのは、いちばん上といちばん下の2つだけ。積立期に効くのが上、取り崩し期に効くのが下です。私のように購入時手数料のかからない商品を選んできた人ほど、「直接引かれる費用」を出口で初めて見ることになります。
信託報酬は3者で分けられる
同協会の説明によると、運用管理費用は運用管理にかかる費用などをまかなうもの。配分先は運用会社・販売会社・信託銀行の3者です。保有額に応じて日々支払う費用で、年率がいくらかは目論見書に書いてあります。
監査報酬は、投資信託が原則決算ごとに監査法人などから監査を受けるための費用。売買委託手数料は、ファンドが中身の株式などを売買するときに発生する費用で、こちらは運用の結果として出るものなので、事前にいくらかかるとは示せないと明記されています。この2つは信託報酬とは別枠で、やはり信託財産から引かれる費用です。
留保額だけは、誰の収益にもならない
信託財産留保額の説明は、こうです。投資信託を購入または解約する際に手数料とは別に徴収される費用で、販売会社が受け取るのではなく信託財産に留保される。投資信託によって差し引かれるものと差し引かれないものがある、と。
ここが他の4つと決定的に違う点です。購入時手数料は販売会社へ、信託報酬は3者へ、監査報酬は監査法人へ、売買委託手数料は証券会社へ。行き先がある。留保額だけは、ファンドの中に残ります。
残る先が「ファンド」ということは、解約せずに持ち続けている人たちの取り分になる、という意味です。誰かが途中で降りると、その分の資産を売って現金を作る必要があり、そこにコストが発生する。そのコストを、降りる人が置いていく仕組みだと理解しています。
取り崩し期は、これが毎回かかる
積立期に留保額を意識しなくてよかったのは、解約しないからです。取り崩し期は逆で、毎月あるいは毎年、売る側に回ります。
仮に0.3%の留保額があるファンドを1,000万円ぶん一度に解約すると、3万円。同じファンドから年60万円ずつ20年かけて引き出すと、1回あたり1,800円で、20回の合計は3万6,000円です。総額はほとんど変わりません。ここは意外と効きません。
効くのは、方針を変えたくなったときです。取り崩しの途中で商品を乗り換えると、残高の全額に留保額がかかります。残高800万円で0.3%なら2万4,000円。乗り換えが1回なら飲める額ですが、迷って2回、3回と動かすと積み上がります。留保額のあるファンドを持っている人ほど、出口の設計は先に決めておいたほうがいい、というのが私の結論です。
換金には買取請求と解約請求の2種類がある
同協会は換金方法を2つに分けています。買取請求は、途中換金したい投資信託を販売会社に買い取ってもらう方法。解約請求は、販売会社を通して信託財産の一部の解約を請求する方法です。
昔はこの2つで税金の扱いが違いました。2009年度(平成21年度)の税制改正により、2009年以降、公募株式投資信託の換金時に生じた利益は換金方法を問わず譲渡所得となり、解約・買取の税制上の違いはなくなったと書かれています(資産運用業協会 換金の種類と手続き)。
いま取り崩しを始める人は、どちらを選ぶかで税額が変わることはありません。画面上の表記が販売会社ごとに違うだけです。
申し込んでから口座に入るまで4営業日
取り崩し期の実務でいちばん効いたのは、実はここでした。
同協会は、投資信託は原則としていつでも換金の申し込みが可能だとしたうえで、日々決算型(MRF、MMFなど)以外の投資信託の場合、換金の申込をしてから実際に口座にお金が振り込まれるまでには4営業日はかかるので、急にお金が必要になった場合にはこの点を考慮することが必要だと書いています。受付時間は販売会社の営業時間の午後3時30分まで(投資信託によって異なる)。支払いは原則として申込日から4営業日目以降です。
4営業日は、連休を挟むと1週間近くになります。私が生活費18か月分を普通預金に置いているのは、この待ち時間を買っているからです。売らずに済む時間があると、下がった週に慌てて注文を出さずにすみます。
日々決算型のMRF、MMF、中期国債ファンドは扱いが別です。通常は申込日の翌営業日に支払われ、キャッシング(当日引き出し)の方法なら利用限度額を500万円(販売会社により異なります)として当日に受け取れる、という注記もありました。
クローズド期間があるファンドもある
同じページには、短い注意がもうひとつ添えてありました。投資信託によっては、一定期間解約ができない「クローズド期間」を設けているものもあるので事前に確認するように、と。
取り崩しの計画は「いつでも売れる」を前提に組みます。クローズド期間のある商品が資産の一部に混ざっていると、その前提が崩れる。目論見書で確認できるので、出口に入る前に一度は見ておく項目です。
目論見書のどこを見るか
費用の記載は、目論見書の後半にまとまっています。私が取り崩しを決める前に見たのは3か所でした。
- 信託財産留保額の有無と率(換金時。ない商品も多い)
- 運用管理費用の年率と、その配分(運用会社・販売会社・信託銀行の内訳が書かれていることがある)
- クローズド期間の有無
ファンドオブファンズの場合はもう1か所あります。投資信託に投資する投資信託なので、投資先の投資信託が徴収する信託報酬も間接的に払っている。同協会は、ファンドオブファンズの多くはこの投資先ぶんも含めて実質的な信託報酬率を算出して目論見書に記載していると説明しています。見比べるなら、この実質のほうです。
留保額があるファンドは割高なのか
費用の一覧で見ると、留保額のある商品は項目が1つ多い。だから割高に見えます。
ただ、行き先を思い出すと評価が変わります。留保額は誰かの収益ではなく、残る人の側に置かれるお金です。解約が相次いだときに、居続ける人の基準価額が削られにくくなる。長く持つ前提なら、留保額のある設計は必ずしも不利ではありません。
逆に、これから何度も売る側に回る取り崩し期の人にとっては、単純に出ていく費用です。同じ商品でも、積立期と取り崩し期で評価が反転します。
取り崩しを始める前に確認した4つ
- 保有している商品ごとに、信託財産留保額の有無と率を書き出す
- 留保額のある商品を、先に売るか後に売るかを決める
- クローズド期間のある商品が混ざっていないかを確認する
- 換金の申込から入金まで4営業日かかる前提で、生活費の置き場所を決める
4つのうち、後から取り返せないのは2番目です。売る順番は一度動かすと戻せません。私はこの確認に、日曜の午前を2時間ほど使いました。
免責事項
本記事の費用・手続の記述は、2026年9月時点で資産運用業協会の公表内容を確認して書いています。記事中の0.3%や1,000万円といった数字は、費用の効き方を見るための仮の設定であり、特定の商品の条件ではありません。実際の費用・受付時間・支払日は商品と販売会社によって異なりますので、目論見書および販売会社の説明でご確認ください。本記事は特定の金融商品の購入を勧誘するものではありません。

