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No.002

売るときの税金|特定口座・一般口座と、損益通算・繰越控除の順番

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売却と税金公開日 書き手 篤

暗い机の上に置かれた真鍮の器具と、灯りのともったガラスのランプ

投資信託を売って100万円の利益が出たとき、手元にいくら残るのか。答えは、どの口座で持っていたかで変わります。特定口座の源泉徴収ありなら、売った時点で20.315%が引かれて79万6,850円。NISA口座なら100万円がそのまま残る。一般株式等の口座なら、自分で計算して申告する。同じ商品を同じ日に売っても、この差が出ます。

取り崩しの設計は、売る方式を決めた時点では半分しか終わっていません。残り半分が税金です。

上場株式等の譲渡益にかかる税率

国税庁は、源泉徴収口座内の上場株式等を譲渡した都度、譲渡益に相当する金額に15.315パーセント(他に住民税5パーセント)の税率を乗じて計算した所得税および復興特別所得税が源泉徴収されると説明しています(国税庁 No.1476 特定口座制度)。合計で20.315%です。

100万円の利益なら20万3,150円。50万円なら10万1,575円。生活費として月5万円を取り崩すなら、年60万円の引き出しに対し、利益部分にこの割合がかかります。引き出し額のすべてが課税対象になるわけではありません。売却代金のうち、買ったときの値段を超えた部分だけが利益です。

特定口座の2種類と、一般口座

国税庁の説明によると、特定口座は1つの金融商品取引業者等につき1口座に限られ、その口座内の上場株式等の譲渡による所得は、口座外で譲渡した他の株式等の所得と区分して計算されます。計算するのは金融機関側で、年が明けると特定口座年間取引報告書が届きます。

売った時の源泉徴収年間の損益計算確定申告
特定口座(源泉徴収あり)都度引かれる金融機関が行う原則として不要
特定口座(源泉徴収なし)なし金融機関が行う報告書をもとに申告
一般口座なし自分で計算自分で計算して申告

源泉徴収を選ぶ場合は、その年の最初の譲渡の時までに「特定口座源泉徴収選択届出書」を提出する必要があります。しかもその選択は年単位で、年の途中で源泉徴収をやめる変更はできません。11月に「今年は損が出たから源泉徴収を外したい」と思っても、その年は間に合わないという意味です。

源泉徴収ありでも申告したほうがいい場面

源泉徴収口座の所得は、口座ごとに申告するか申告不要とするかを選べます。申告不要のまま放置していいのは、その年の損益がその口座だけで完結している場合です。国税庁は注記で、源泉徴収口座内の所得について他の口座の上場株式等の譲渡損益と相殺する場合や、損益通算および繰越控除の特例の適用を受ける場合には、確定申告をする必要があると書いています。

取り崩し期には口座が複数に散らばっていることがよくあります。私の場合、投資信託は2社、個別株は別の1社に置いたままでした。A社で40万円の利益、B社で25万円の損という年には、B社の損を申告しないとA社の源泉徴収分は戻ってきません。

損益通算と、3年の繰越控除

国税庁は、上場株式等の譲渡損失の金額について、確定申告により、その年分の上場株式等の配当等に係る利子所得の金額および配当所得の金額(申告分離課税を選択したものに限る)と損益通算できると説明しています。そして損益通算してもなお控除しきれない損失は、翌年以後3年間にわたり、確定申告により繰越控除できます(国税庁 No.1474 上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除)。

ここで大事なのは「3年間」の数え方より、繰り越すには損が出た年も、その後の年も、続けて確定申告をしておく必要があるという手続きの側です。取り崩し期に入って給与がなくなると、確定申告そのものをしない年が出てきます。損を出した年に申告を飛ばすと、その損は翌年に持ち越せません。

注記も2つあります。繰り越された上場株式等の譲渡損失は、一般株式等に係る譲渡所得等の金額から控除できません。相対取引などで生じた譲渡損失も、損益通算と繰越控除の対象外です。

NISAの損は、どこにもぶつけられない

同じ注記の3つ目に、非課税口座(NISA)および未成年者口座(ジュニアNISA)内の上場株式等を譲渡して生じた譲渡損失については、損益通算および繰越控除はできないと書かれています。

利益が出ているときのNISAは強い。損が出ているときのNISAは、課税口座より弱い。取り崩し期は含み損の資産を売る場面が必ず来るので、この非対称は覚えておく価値があります。値下がりした資産を売るなら課税口座から、値上がりした資産を売るならNISAから。順番を入れ替えるだけで、同じ手取りを作るのに必要な売却額が変わります。

上場株式等と一般株式等は、別々の箱

もうひとつ、混ざりやすい区分があります。国税庁は、株式等の譲渡による所得を「上場株式等に係る譲渡所得等の金額」と「一般株式等に係る譲渡所得等の金額」に区分し、他の所得と区分して税金を計算する申告分離課税になると説明しています。

そしてこの2つはそれぞれ別々の申告分離課税なので、上場株式等の譲渡損失を一般株式等の譲渡所得から控除することはできません。逆方向も原則としてできません(国税庁 No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税))。非上場の持株会の株や、未上場企業の株を持っている人は、ここで一度立ち止まることになります。

売る順番を決めるための、4つの確認

私は取り崩しを始める前の週末に、証券会社3社の口座一覧を印刷して、4つだけ確認しました。どの口座が特定口座か、源泉徴収の選択はどうなっているか、含み損の銘柄はどこにあるか、そして今年すでにいくら利益を確定させたか。所要時間は40分ほどでした。

この4つが分かっていれば、「今月の生活費30万円をどこから作るか」という問いに、税引後の金額で答えられます。逆にこれを知らないまま売ると、源泉徴収で引かれた分に気づくのは翌年の報告書を見たときです。

配当と分配金にも同じ割合がかかる

取り崩し期は売却益だけを見がちですが、保有している間に入る配当や分配金も課税対象です。国税庁は、源泉徴収口座内の上場株式等の配当等について、譲渡損失の金額を控除した金額に対して15.315パーセント(他に住民税5パーセント)の税率を乗じて計算した所得税および復興特別所得税が源泉徴収されると説明しています。

年100万円の分配金を受け取る設計にしているなら、口座に入るのは79万6,850円です。「分配金で生活費をまかなう」と考えるとき、この2割ぶんを先に引いておかないと計画がずれます。

年間取引報告書で最初に見る3つ

年が明けて届く特定口座年間取引報告書は、確定申告の要否を判断する材料になります。私が毎年見るのは3か所です。譲渡の対価の額、取得費および譲渡に要した費用の額、そして源泉徴収税額。この3つで、その年にいくら売っていくら引かれたかが分かります。

3社ぶんを並べて、源泉徴収税額の合計が、全社を通算した損益から計算される税額より多ければ、申告すれば戻ってくる金額があるという見当がつきます。2026年の私の場合、3枚を机に並べて電卓を叩くのに20分かかりました。

申告して戻る額と、申告して増える負担

還付だけを見て申告を決めると、別のところで跳ね返ることがあります。確定申告で上場株式等の譲渡所得等を申告すると、その所得は合計所得金額に含まれます。住民税や国民健康保険料の算定、配偶者控除や扶養の判定に影響する場合があるからです。

還付額が3万円でも、保険料が5万円上がるなら差し引きは赤字。金額の大小で結論が変わるので、申告するかどうかは口座ごと・年ごとに判断することになります。判断に迷う規模なら、税務署の相談窓口で事前に確認したほうが早いと感じています。

譲渡所得の計算は「売値−取得費−費用」

税率の前に、何に率を掛けるのかを押さえておきたい。上場株式等の譲渡による所得は、譲渡による収入金額から取得費と譲渡に要した費用を差し引いて計算します。売った金額の全部ではなく、買ったときの金額を超えた部分だけが課税対象です。

1,000万円まで育った投資信託を200万円ぶん売ったとして、その200万円のうち利益に当たるのは、買値と売値の比率で按分した分になります。仮に取得価額の合計が600万円で評価額が1,000万円なら、含み益の割合は4割。200万円を売れば、利益はおよそ80万円で、税は約16万2,000円という見当です。取り崩しの初期は元本の割合が大きいので、思ったより税は重くありません。

一般口座に資産が残っている場合

取り崩し期の人ほど、特定口座が始まる前から持っている資産が一般口座に残っていることがあります。一般口座は損益計算も申告も自分の手でやることになる。取得費が分からないと、この計算で詰まります。

買った当時の取引報告書が残っていれば一番早く、なければ金融機関に取得価額の照会をかけることになります。相続で引き継いだ資産は、被相続人の取得費と取得時期を引き継ぐのが原則です。ここを調べるには時間がかかるので、取り崩しを始める前の年に片づけておくと、売りたいときにすぐ動けます。

取り崩し1年目にやること

  1. 証券会社ごとに、特定口座か一般口座かを一覧にする。源泉徴収の選択も控える
  2. 各口座の含み益・含み損を、銘柄単位で書き出す
  3. その年に確定させた利益の累計を、売るたびに記録する
  4. 年末までに、損を確定させるかどうかを決める。源泉徴収の選択変更は翌年分しかできない
  5. 年明けに届く年間取引報告書を全社ぶん並べ、申告の要否を判断する

5つのうち、後から取り返せないのは4番目です。年をまたいだ時点で、その年の損益はもう動かせません。

免責事項

本記事の税率・制度の記述は、2026年9月時点で国税庁タックスアンサーの公表内容を確認して書いています(各ページの表記は令和8年4月1日現在法令等)。税制は改正される場合があり、個別の事情によって取り扱いが変わります。具体的な申告の要否や計算は、所轄の税務署または税理士にご確認ください。本記事は特定の金融商品の購入を勧誘するものではありません。

書き手

篤

会社員をしながら、親の年金の手続きと自分の口座の整理を並行してやっています。制度の数字は公的機関の資料で確認し、計算は自分の家計に当てて確かめてから書いています。詳しくは運営者情報をご覧ください。