No.001
定額取り崩しと定率取り崩し|同じ1,000万円でも残り方が変わる理由
※本記事には広告(PR)を含みます。

60歳で1,000万円あるとして、毎月5万円ずつ引き出していくと、利回りが0%のままなら200か月、つまり16年8か月で残高は0になります。ここまでは割り算です。ところが「毎月5万円」を「毎年4%」に置き換えたとたん、計算上の残高は一生ゼロになりません。
積み立てる側の話は、証券会社の設定画面で金額を決めれば終わります。取り崩す側は、金額を決める前に方式を選ぶところから始まります。ここでは定額と定率という2つのやり方を、同じ1,000万円に当てて並べます。
定額と定率、計算のどこが違うのか
定額は、毎月または毎年、決まった金額だけ売って引き出すやり方です。60歳で1,000万円、毎月5万円なら年60万円。残高が900万円でも300万円でも、引き出す額は動きません。
定率は、その年の初めの残高に一定の率を掛けた額を引き出します。年4%なら初年度は40万円。残高が800万円まで減った年は32万円、1,200万円に増えた年は48万円と、受け取る額のほうが動きます。
違いは、金額を固定するか率を固定するか。その1点だけです。それでも20年後の姿はかなり変わります。
利回り3%・20年で並べてみる
1,000万円を元手に、年の初めに引き出して、残りを年3%で運用できたと仮定します。定額は年60万円、定率は年4%。数字は運用成果を約束するものではなく、方式の差を見るための目安です。
| 経過年 | 定額60万円/年の残高 | 定率4%の受取額 | 定率4%の残高 |
|---|---|---|---|
| 1年目 | 968万円 | 40万円 | 989万円 |
| 5年目 | 831万円 | 38万円 | 945万円 |
| 10年目 | 635万円 | 36万円 | 893万円 |
| 15年目 | 409万円 | 34万円 | 845万円 |
| 20年目 | 146万円 | 32万円 | 798万円 |
| 23年目 | 0円(枯渇) | 31万円 | 772万円 |
定額は23年目で底を打ちます。定率は23年たっても772万円が残っていて、そのかわり受取額は40万円から31万円へ、9万円ほど細っています。
定率は枯れない。そのかわり手取りが減る
定率のほうが優れているように見えたなら、利回りを0%に落として同じ表を作ってみてください。定額は17年目で尽きます。定率の残高は25年目でも360万円ありますが、その年の受取額は15万円まで落ちています。月あたり1万2,500円です。
年金の不足分を埋めるつもりで組んだのに、埋めたい金額のほうが年々縮む。これが定率の弱点です。「資産が尽きない」と「生活費が足りる」は別の話でした。
下がった年に定額で引くと何が起きるか
利回りを−2%で固定して計算すると、定額は15年目で枯れます。3%のときより8年早い。ここで効いているのは平均の利回りだけではありません。下がっている最中に、下がった価格で売って生活費に充てているという事実です。
同じ商品を同じ期間持っていても、値動きが来る順番が違えば残高は変わります。積立期は安い時期に多く買えるので順番が味方をしますが、取り崩し期は逆に働きます。暴落の年に定額で引き出し続けると、回復したときに乗せる元手そのものが減っています。
対策として現実的なのは、下落した年だけ引き出し額を落とす、現金を1年から2年分ぶん別に置いておく、といった単純なものです。私は後者を選び、生活費の18か月分を普通預金に分けました。利息はつきませんが、この18か月は「売らずに済む時間」を買っているつもりです。
NISA口座から取り崩すと、枠はどうなるか
2024年から始まったNISAでは、商品を売った場合、翌年以降に、売った商品の簿価(取得金額)の分だけ非課税投資枠が復活します。金融庁のNISA特設ウェブサイトにある例では、売却で翌年復活するのは簿価の100万円で、値上がり分は枠として戻りません。
年間投資枠はつみたて投資枠120万円と成長投資枠240万円の合計360万円、生涯の非課税保有限度額は1,800万円(うち成長投資枠は1,200万円)。この上限も簿価で計算されます。詳しくは金融庁 NISA特設ウェブサイトで確認できます。
取り崩す側から見ると、枠が戻るのは翌年です。年の途中で売って、同じ年にその枠で買い直すことはできません。生活費のために売った分を「また積み立て直そう」と考えるなら、年をまたぐ前提で計画を立てることになります。
NISAで出た損は、他の利益と相殺できない
取り崩し期に忘れやすいのが、NISA口座の損失の扱いです。国税庁は、非課税口座(NISA)内の上場株式等を譲渡して生じた譲渡損失について、損益通算および繰越控除はできないと説明しています(国税庁 No.1474 上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の注3)。
課税口座なら、損を確定させて他の利益や配当と相殺し、引ききれない分は翌年以後3年にわたって繰り越せます。NISAにはその道がありません。値下がりしている資産をどの口座から売るかで、手元に残る金額が変わる場面があります。
私が先に決めた3つの数字
表を20行ぶん作って眺めたあと、私は方式より先に3つの数字を決めました。1つ目は、公的年金で足りない月額。家計簿の12か月ぶんを平均して7万3,000円でした。2つ目は、売らずに耐える期間。これを18か月としました。3つ目は、引き出し額を落とす下落率。資産全体が15%下がった年は、翌年の引き出しを2割減らすと決めています。
方式そのものは、この3つが決まったあとで定率寄りに落ち着きました。定額の安心感は捨てがたかったのですが、23年目でゼロになる表を見たあとでは選べませんでした。
「何%なら安全か」に決まった数字がない理由
取り崩し率の話になると4%という数字がよく出てきます。もとは米国の過去の市場データを使った検証から広まった目安で、日本の税制・通貨・公的年金を前提に作られたものではありません。為替の影響を受ける資産をどれだけ持つか、年金がいつからいくら入るかで、同じ4%の意味は変わります。
自分の家計に引き直すなら、率より先に金額です。年金で足りない月額が7万円の人と15万円の人では、1,000万円という同じ残高の持ち時間が2倍近く違います。率は後から割り算で出てきます。
月ごとに引くか、年に1回まとめて引くか
方式を決めたあとに残るのが頻度です。毎月売ると、値動きの平均が取れるかわりに売却の回数が12倍になります。年1回なら手間は減りますが、その1回のタイミングが年の高値か安値かで手取りが変わります。
私は年2回に落ち着きました。1月と7月に、その時点の残高から半年分を売って普通預金に移します。6か月分をまとめて動かすので、途中で相場が下がっても売らずに済みます。売却の手続き自体は1回あたり10分ほどです。
どの口座から売るかで、同じ手取りでも売却額が変わる
口座が複数あるなら、方式と頻度の次に順番を決めます。値上がりしている資産をNISAから売れば、利益に税金がかかりません。値下がりしている資産を課税口座から売れば、その損は他の利益と相殺できます。逆に組むと、どちらの利点も使えません。
月30万円を作る場面で、税引後30万円にするために必要な売却額は口座によって変わります。ここを詰めておくと、同じ生活費でも資産の減り方が変わってきます。
現金をいくら分けておくか
取り崩し期の現金は、増やすための資金ではなく「売らずに待つ時間」です。18か月という数字は、家計の月額18万円を掛けて324万円。過去の下落局面がどれくらいで戻ったかを調べて出した値ではなく、自分が耐えられる長さから決めました。
この現金があると、相場が15%下がった年に引き出しを2割落としても生活が回る。落とした2割は現金から補うだけなので、下がった価格で売る回数がそのぶん減ります。逆に現金を持ちすぎれば、運用に回る資産が細って長期の伸びを取りこぼした。私は生活費の12か月分を下限、24か月分を上限と決めて、その幅の中で動かしています。
免責事項
本記事の計算はすべて一定の利回りを仮定した理論値で、税金・手数料・分配金の扱いを含みません。将来の運用成果を約束するものではなく、市場の値動きによっては元本を下回ります。制度の内容は2026年9月時点で公的機関の公表資料を確認して書いていますが、改正される場合があります。投資の判断はご自身の責任でお願いします。

